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NOVEL

 MIRACLE HUNTERS -MOTHTER OF REQUIEM- 平安京篇 壱 

暖かな春風の吹くある日の午後。今丁度、6時間目の終わりのチャイムが鳴り響いている。

相模原市立相模中学校のものである。
「では、おさきぃーっ」
藤崎東馬は、チャイムと同時に教室を出た。授業中に帰宅用意をしていたのだろう。といってもカバンは潰していて何も入っていないご様子。当然一番のりである。廊下をハイスピードで駆けていき、昇降口に差しかかったそのとき、悪夢は起きたのであった。突然、何かが頭上に現れた。咄嗟に避けたが、次の瞬間腹部に痛みが走った。
「胴ぅーっ」
「いったぁーっ」
ナイスヒット。東馬はその場に蹲ってしまった。そこに竹刀を持って東馬を見下している少女がいる。

クラスメイトの相原佐月である。
「廊下は走ったらいけません。…まったく今日という今日は逃がさないからねっ」
そういって竹刀で東馬をぺちぺちたたいた。肩まで長くシャギーいりの栗色の髪、一見どこかのお嬢さんじゃないかと思わせるかわいい顔をしていても、行動や性格がこのようではたまらない。「今日こそは部活でてよ!大会近いんだから!」
東馬の耳にきーんと響いた。そして直ぐ様立ち上がり昇降口の方に歩いていった。
「まちなさいよーっ。」
佐月が竹刀を振り上げた瞬間、東馬はこういった。
「…そんなん暴力女は嫁の貰い手ないぜ。」
一瞬、佐月の動きが止まった。だが、直ぐに反論する。
「よけいなお世話よ。ねえ、部活でてよー!」
東馬は大抵部活は(部活だけではないが…)さぼってばかりである。無断欠席、遅刻はもちろん授業もろくにでないから成績も良くないし、外見も茶髪を通り越して金髪と化しおそらく相模中はじまって以来と言っていいほどの大問題児なのだ。先生達はもう諦めが入っていて相手にしていない。だから、佐月はどうにかしようと思って親のようにいちいち忠告するのである。でもいつもこんな調子なのである。
佐月は東馬の手を引いて武道館に向かった。
「おい、離せよ。オレ帰るんだぜ!」
「そんなのうそよっ。そういって家にはいないじゃない。いつも何処で何してんのよっ。」
「だから、オレを監視するような事はやめろって!」
「いやよっ。あんたの行動は絶対おかしいんだから。何かあるんでしょ。絶対に突き止めるんだから。」
佐月の手に力が入った。
「…勝手にしてくれ…」
東馬は呆れてそういった。

 

 

 武道館。ここでは剣道部と柔道部が一生懸命部活に励んでいる。東馬は剣道部で、佐月も実は剣道部副主将なのだ。
「主将!東馬つれてきたわ。」
佐月が問題児を引きずりながらずんずんと道場に入ってきた。主将と呼んだその男に東馬を預けるとぶつぶつ文句を言いながら女子更衣室の方へ行きかけたが、直ぐ様一言、
「主将、東馬を逃がしちゃ駄目よ!」
そしていってしまった。
「…まったく、やってらんねーぜ。」
東馬はそういって出口へと歩いていった。主将はその姿を見て呆れながら、
「お前は喧嘩は強いが剣道はイマイチだからな、たまにゃ、練習せんと大会じゃぁ勝てねーぞ。」と投げかけた。東馬は振り向き、少々微笑しそのまま立ち去ってしまった。
「主将ー!!」
主将がおそるおそる振り向くと、案の定そこには防具・竹刀付きの鬼ババァがいた。
「まーた、ドサクサにまぎれて逃がしたわね。いい度胸してるじゃない?今日の組手はあんたにしてあげるから覚悟しなさい。」
主将といえども実は佐月のほうが実力は断然上なのである。主将、心の叫び、
ー藤崎のバッキャロー…。
「ふーっ、やっと開放された。…って、たまには部活にででもいいんだが、本日はマジにデートなのよ。ごめんね、佐月ちゃん。」
東馬は校門から武道館に向かって冗談ぽくそういって姿を消した。

 

 

「もう、あの手紙届いたかしら…。届いたわよ、絶対。だって三重叔母さん絶対に届けてくれるっていったもの。あの人に…」
少女は属に体育座りというのだろうか、その格好でうずくまりながら居間でテレビを見ていた。「小百合、もう1時じゃない。明日学校でしょ。」
小百合という少女はテレビを観ながら母親の言葉に無言で頷いた。
「じゃあ、自分の部屋に帰って寝なさい。」
…ほら、きた。小百合は無表情になった。だか、今日もいつものセリフをいってみる。
「ーねえ、1階で一緒に寝てもいい?」
「なに言ってるのよ。自分の部屋がほしいって言うから大吾を1階に下ろしたんじゃない。だからちゃんと上で寝なさい。わかった?」
今日の小百合は特に聞き分けが悪かった。何か焦っているかのように必死に母親に頼み込んだが、いいかげんにしなさい!の一言が終止符を打った。
「…ママの馬鹿!!」
小百合は絶叫し、2階の自分の部屋に駆け込んだ。
その瞬間、
「時は満ちた…」
誰かの声が聞こえた。小百合は不意に部屋に入ってしまった自分をなんとか戻そうとしたが声がするほうに吸い込まれていく。そこは彼女の部屋ではなく、別空間と化していた。小百合は大きく絶叫した。声が裏返りながらも必死に。様子が変だと思ったのか、こんな遅くに大声を出すんじゃないというような表情で母親が階段を上ってきた。そこでみたものは、部屋の向こうから何かに引っ張られるのを阻止しようと、ドアにやっとしがみつき、顔は血の涙で真紅に染まった自分の娘の姿だった。母親の直感、小百合が連れていかれる!急いでその場に駆けより手を伸ばした瞬間、小百合は部屋の奥に吸い込まれ、ドアは完全に閉ざされた。
母親は呆然となった。鍵などついていないがびくともしないドアをめいいっぱい叩いたが、反応がない。何が起きたかさっぱり理解していないが、これだけは確信していた。
ー小百合は部屋に飲み込まれたんだ…。

 

 

「部屋が生きてる?!」
紫黒の髪の少年が1通の手紙を手にして言った。郷城悠太はその不思議な手紙を近くにいた母親、霧花に渡した。霧花の話では陰陽道・七社家当主の彼女につかえている『三重』が、姉の娘から預かったものだという。その手紙の文面も、なんとも不思議な雰囲気のものである。それは、
『ワタシヲヘイアンキョウカラスクイダシテ…』
「平安京か…。御袋、三重さんに会いたいんだが…」
悠太がそう言ったとき霧花は微笑し、道場の方へ案内した。
 郷城家には悠太の父であり、元祖ミラクルハンターとして戦った、現在警視庁警視正の郷城竜馬の構える道場がある。いつもなら夕方この時間になると剣道を習いにくる子供達でいっぱいなのだが、今日は静かにものだった。道場には三重という女性が座っていた。漆黒の長髪を緩く束ね、陰陽服装を身にまとった彼女は、悠太は何となく母、霧花の姿とかぶった。
悠太は何も言わず道場に上がり、閉眼沈黙の三重の前に立った。
「三重殿、もうひとつの手紙が拝見したいんだが」
悠太はそう言うと三重の頭部に手を掲げた。そして、三重の意識の中に入り込む。もうひとつの手紙とは意識伝達法のことである。三重はあらかじめ姉の娘の心の状態、意識をコピーしていたのを悠太は分かっていた。それだけこの三重という女性は霧花に仕え人にふさわしい人材ということになる。
今、悠太の意識と三重の中にあるもうひとつの手紙、つまり娘の意識が接触した。

 彼女は何かに追われている。そして、とうとう逃げ切れず闇へと引きずり込まれていく。その闇の向こうは…

突然、悠太と三重に爆竹が弾け出したような衝撃が襲った。これは、拒絶反応…?!それも娘のものではなく何者かのものだと悠太は直感した。
「…これは佐月嬢から逃げ出してきて正解だったぜ。このデートはかなりてこずりそうだな。」
悠太の顔に微笑が浮かんだ。
そう、彼は藤崎東馬と同一人物なのである。
郷城悠太は、怪魔という異世界の者達から人間界の平和を守るため、日夜戦い続けているミラクルハンターであり、ルックス良し、性格良し、成績優秀、運動神経抜群と何拍子も揃ってしまうパーペキ野郎である反面、藤崎東馬と偽名を名乗り、ずば抜けた演技力で相模中1の大問題児を装い、ミラクルハンター郷城悠太という存在を隠し生活している。それには理由があるのだが、ここでは触れないということにしておこう。
悠太は三重に目線を合わせ、もう一つの手紙は確かに預かったことを告げ、そして
「狩りに出る。あとはオレに任せて」
というと、待機していた妹でありパートナーでもある春化と共に道場を後にした。
霧花は三重をそっと包み、
「あの子に任せれば大丈夫よ。なにせ郷城家と七社家の血を受け継ぐミラクルハンターなのだから…」
三重はそっと眼を閉じた。
「ここか…」
悠太と春化は問題の娘の家の前にいた。なんの変哲のない只の一軒家だが、とてつもない怪魔反応を感じる。
玄関の前にきた時、勝手にドアが開き出した。そこには、窶れ果て、涙の後の絶えない母親らしき女性の姿があった。その女性はふらつきながら、悠太に歩み寄り、枯れることのない涙を流しながら、
「む…娘を、小百合をたす…け…て…」
といった。
そう、ここは雛形小百合の家。彼女は部屋に飲み込まれたまま未だに帰ってこないらしい。悠太は母親を軽く抱きとめ、自信に満ちた瞳で大丈夫と訴え、そして2階の方へじっくりと歩み出した。ドアの隙間から感じる気配。悠太の直感、今なら小百合を飲み込んだその日からあかずの扉と化したドアが開く!そしてドアノブに手を伸ばした。突然、ドアは開き悠太を飲み込もうとした。
「そんなに焦らずともそっちにいってやるぜ。春化!」
「待って、もう少し時間を稼いでよ。あかずの扉のキーワード、キーワード…」
春化は直ぐ様ミニコン(異次元からダウンし、使用する小型ノートパソコンの略称)をダウンして空間のゆがみをキャッチしようとしたその時、猛烈な光に包まれた。
その瞬間、悠太の瞳に映ったものは
…平安京?
その光は悠太をそこへ力強く引き込んだ。
-サア、ハヤクイラッシャイ…。
「ちっ、もう、もたない…春化、あとは…」
と悠太、最後の言葉を残し、跡形もなく消え去った。春化は急いでまたもやあかずの扉となったドアを思いっきり引いた。案の定、ドアの向こうには悠太の姿はなく、そしてかわいらしい女の子の部屋に戻っていた。
春化は深刻な顔になり、ミニコンをおとし、その場に座り込んでしまった。
「間に合わなかった…兄貴、ごめん…」

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